第4話

=Cool Struttin'=

■レコード屋で“ジャケ買い”@
近頃は音楽をデータ形式で扱うことも当たり前になり、
さりとてCDもジャケットは小さく、ライナー・ノーツの字はさらに小さく、
読む気が失せてしまうものが多いのですが、
かつてのLPレコードの時代はジャケットも大きく、特にジャズ黄金時代のジャケットは
それなりのお金と手間隙をかけてデザインされていたように思います。
当時のジャズ喫茶においても、店内に流れるアルバムのジャケットは
必ずレコード・プレイヤーの傍らに掲示してあり、興味があれば手に取って
ライナー・ノーツを読んだりしたものでしたから、ジャケットのデザインと“中身”は
切っても切れないイメージでつながっていました。
そういう時代のレコードには、レコード屋の店頭でひょいと見かけたジャケットに目を惹かれ、
「おっ、いいな!」と手に取るとなかなかのメンバー、半信半疑で購入するとやっぱりこりゃいいね、
というものがけっこうありました。そう、いわゆる「ジャケ買い」ですね。
もちろん中には失敗する例も多々あったと思うのですが、そういう例はほとんど覚えていないというのも、
人間勝手なもんですねぇ・・・

私と同年代、もしくはもう少しご年配の方で、このレコードでジャズを聴き始めたという人は かなり多いのではないでしょうか?
Cool Struttin’とは「おすまし歩き」のような意味。 ハイヒールにタイトスカートで気取って歩く女性のジャケットはそのイメージそのもの。
モノクロであるのも、足元だけで顔が写ってないのもまたいい。 ともかくこの
小洒落たジャケットに惹かれ、聴いてみるとまさにイメージ通りの演奏、
ハードバップの代表的アルバムです。
メンバーは、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)、ポール・チェンバース(b)、
ジャッキー・マクリーン(as)、アート・ファーマー(tp)とそうそうたるもので、
今回久しぶりに聴いてみると、やはり何といっても“雰囲気”がいい。
これぞ、ジャズだぁ!という雰囲気が全体に漂っている。 この手の50年代後半のハードバップを特に「Finger-Poppin’ Bop」と呼ぶ人もいるようです。
Cool Struttin’ 1958
ソニー・クラーク(p)

ところが、本家アメリカでは当初全く人気のないアルバムだったらしく、
日本での大ヒットにより大量の注文を受けて、ブルー・ノート・レコードの創業者であり、
プロデューサーでもあった、アルフレッド・ライオンが驚いたというエピソードもあります。
現在、日本のジャズ・マーケットの規模は本国アメリカを超え、世界最大の影響力を持つとも言われますが、
既にこの頃から日本は世界有数のマーケットになっていたのですね。

表題曲のCool Struttin’もオシャレですが、2曲目のBlue Minorもかっこいい。
アマチュアにカバーされたのはむしろこちらの方が多かったかも。
昔の私はこのレコードでまずはジャッキー・マクリーンにハマったのですが、
今聴くとアート・ファーマーのソロがすばらしい。
残念なことに、この後ソニー・クラークは62年に若くして亡くなり、
マクリーンはオーネット・コールマンなどのフリー・ジャズに影響を受け、傾注して行きます。

当時のこのアルバムに対して、日本のジャズ・ファンがいかに思い入れがあったかを示すエピソードとして、
以下のパロディ・アルバムをご覧下さい。


Cool Struttin’のパロディ盤

バド・パウエルのパロディ盤

これは84年に、東芝EMIがブルー・ノート・レーベルを復刻した時のPR盤ですが、 後ろにひっそり写っているのが、ジャズ評論家の油井正一さん。
この撮影、制作には大乗り気だったということです。 このPR盤の“中身”も
ブルー・ノート・レーベルの代表曲をバックに、油井さんがDJとなり、
「そもそもハードバップと申しますのは・・・」と名調子の解説入りで、彼の往年のラジオ番組を彷彿とさせ、とても楽しくお勉強にもなるものに仕上がって
います。 ところで、このジャケット写真の掲載許可をEMIに願い出た折に、
今年はアルフレッド・ライオン氏の生誕百年にあたり、それを記念して再度
ブルー・ノートの復刻をするとのこと。 このPR盤も復刻してくれませんかねぇ、EMIの担当者様!( アルフレッド・ライオン生誕100年記念
The Amazing Bud Powell, Vol. 1 (ホンモノ)


ちなみに、先に述べた音楽のメディアについてですが、このようなメディアの変遷は
少なからずジャズを勉強する人の姿勢にも影響を与えているようです。
iPodのようなメディア・プレイヤーはとても便利ではありますが、ともすると“音源”だけが
一人歩きし、誰がいつ誰と何の曲を演奏したかなど、重要な情報がなおざりにされがちです。
ジャズの歴史の詳細や、ミュージシャン個々のエピソードのディテールはあえて知る必要もないし、
ただ聴くだけならそれでも構わないかもしれませんが、仮にもジャズの勉強の参考にしたり、
コピーの対象とするものは、いつ頃演奏され、誰がサイドを固めているのかぐらいは
把握しておいて欲しいものです。
それに、1920年代から70年代にかけて、とりわけ40〜60年代のジャズの歴史について、
大まかな流れは知っておいた方がいいでしょうね。

次回に続く


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