こんにちは、福岡邦夫と申します。
サイトオーナー氏よりなにか書けとのご指名ですので、
Jazz Playerをめざす皆さんの視点で、アドリブ、サックスなどのこぼれ話、
サイドストーリーのようなものをお話しようかと思っています。
しばらくお付き合いください。


第1話

=大きなつづらと小さなつづら=

私がサックスを始めたのは1969年、都立小石川高校に入学し、
同校のフルバンドLittle Stones Orch.に入ったのがきっかけでした。
まずはドラムスやトランペットを希望したのですが、もうメンバーが
決まっていると断られ、見せられたのがアルトとテナーでした。
先輩が目の前に二つの箱を並べ、「どっちがいい?」と、まさに、
舌切り雀の大きなつづらと小さなつづら状態。

先輩にアルトとテナーの違いを尋ねると、
「テナーはアドリブソロをやる楽器」
「アルトはアンサンブルでリードメロディをやる楽器」

この短い解説をした先輩もまだ高校2年生だったのですが、今考えても
なかなかの説明だったと思います。
アルトサックスは40年代にチャーリー・パーカーを代表とするビバップ
スタイルでアドリブソロ楽器としての地位を確立し、他の楽器の演奏スタイル
にも多大な影響を与えてビバップ時代が始まるのですが、
フルバンドの世界ではそれ以前の痕跡をまだ色濃く残していました。

当時69年といえば、すでにマイルス・デイヴィスは「ビッチェズブリュー」
をリリース、いわゆる「電気マイルス」の時代に突入した頃ですが、その反面、
日本のジャズ喫茶では入り口の扉を開ければそこはまだ50年代という雰囲気
でもありました。(そういえば当時のジャズ喫茶のマスターってなんだか
怖かったなぁ。え?今もか?)

フルバンドの世界でも、68年にはモダンフルバンドの新鋭、サドジョーンズ
メルルイスオーケストラが来日し、コンボジャズとフルバンドの融合とか、
メンバー全員がアドリブをとると、すでに伝説となっていました。
一方、当時のカウント・ベイシーの新譜Basie Straight Aheadはサミー・
ネスティコ
のペンによる初アルバムであり、これは今や学生バンドの入門書
ともいうべきレコードとなっています。
私が2年生になった時、そのライナーノーツに楽譜出版の記述を見つけ、
銀座のヤマハに輸入をお願いし、船便を数ヶ月待ってようやく譜面を手にする
ことができたのでした。それでも、そのアルバムではサックスのアドリブは
やはり全てテナーで、アルトのソロは、俗にフィーチャーものといわれる
ストレートメロディを歌い上げるタイプのみ。

ちなみに、このビバップ以前のアルトサックスのスタイル、中間派ジャズ
(一説によればこの言葉はかの大橋巨泉氏の命名らしい)の代表といえば、
ベニー・カータージョニー・ホッジス、などフルバンド出身の人が多いですね。
特に47年の、ウィリー・スミスライオネル・ハンプトンのグループで演奏した
Star Dustは大変な名演奏で、実はこのジャンルがあまり得意でない私も大好きな
アルバムです。

そしてこの時代のアルトサックスとテナーサックスのスタイルの違いは、当時ほど
ではないにしろ、今でもフルバンドでの扱われ方や、アーティキュレーション
フレージングの微妙な違いとなって生き残っています。
アルトはアルトで、テナーはテナーで、やっぱりそれぞれいいなぁ。

ところで、前述の楽器選び、アルトは日管のオーバーホール済み新品同様のピッカピカ、
テナーはたしかマーチン製で、本体はおろかマウスピースまで緑青を吹いたサビだらけ。
とてもこんなものを口に入れる気にはなれぬ(今なら全く平気なんですけど)と、
迷うことなくアルトを選んだのでした。
私のサックス人生はこんな風に始まってしまったんですね。

アルバム紹介
≪Basie Straight Ahead≫
レスター・ヤングバック・クレイトンなどが参加した草創期の後、二―ル・ヘフティを座付きアレンジャーとし、本格的なアンサンブルワークとサド・ジョーンズジョー・ニューマンフランク・フォスターなどのソロイストを揃えたベイシー黄金期ともいうべき時代は、ニール・ヘフティがハリウッド映画界へ進出したことで終わりを告げます。
この後、ベイシーはよりポップな方向へと舵を切り、米軍などにアレンジを提供していたサミー・ネスティコをアレンジャーとして採用し、このアルバムが誕生するのですが、誰にでも聴きやすくなった反面、ソロを前面にというアドリブの醍醐味は薄れていきます。

≪Central Park North≫
ニール・ヘフティの後釜として、ベイシーのアレンジャーを目論んでいたサド・ジョーンズはベイシーバンド用にアレンジを書き下ろしますが、ベイシーのスタイルに合わないということで最終的に却下されてしまいます。そこで行き場のなくなった譜面を使ってメル・ルイスと共にリハーサルバンドを作り、ビレッジヴァンガードでの有名なマンデイナイトコンサート(公開リハーサル)となるのです。ちなみに、初期のメンバーには、チック・コリアジョー・ファレルボブ・ブルックマイヤーハービー・ハンコックフィル・ウッズロン・カーターなどのそうそうたるメンバーも参加していました。でも、メンバーのギャラは17ドル、入場料は2ドル50セント。
このアルバムは元々ベイシー向けの譜面ということもあって、比較的初期の聴きやすいものですが、この後、サド・メルは真骨頂を発揮し、本格的モダンフルバンドとなっていくのです。本格的ジャズビッグバンドで、ソプラノサックスをリードにしたソリもこのアルバムが最初ではないかと思います。


≪Star Dust≫
今の若い人はマーシャル・ロイヤル(ベイシーのリードアルト)は知っていても、ウィリー・スミスはあまり知らないのではないでしょうか?こういう小洒落たシャクリやビブラートもあることを是非聴いてもらいたいですね。
ハンプトンの白熱、超絶技巧のソロも時代に関係なく今聴いてもすごいです。
さらに必聴ものはスラム・スチュワートのベースソロに、ユニゾンで本人がスキャットを歌うという、名人芸のアドリブソロ。このアルバム、ライブ盤なのですが、聴衆もウケたり、笑ったりで特別ジャズファンでなくともこういうコンサートは楽しいだろうなと思うと、最近はこの種の、アートとしてもエンターテインメントとしても成立するイベントがどれほどあるかとちょっと疑問を感じてしまいます。




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