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ハイブリッドジャズの歴史 -クリヤ・マコト-


第8回:ジャズ誕生の話1−ジャズはトルコマーチ?

「RHYTHMATRIX」のレコーディングが一段落した。マスタリングが終わり、タイトルやジャケもほぼ決定。3人で撮るのは初めてのアーティスト写真も撮り終え、リリースはちょっと遅れて6月末になりそう。
メンバーが3人いるせいもあり、事務所やメーカーさんの意向もあり、結構もめたアルバム・タイトルは、結局いさぎよく「RHYTHMATRIX」に決定。同様に結構もめたジャケット・デザインも、「RHYTHMATRIX」のロゴを大きくあしらったシンプルで目立つモノに決定。う〜ん、わかりやすい。現在進行形のラテンジャズです。みなさん、6月末まで首を長〜くして待っててね。

さて、今回から何回かに分けで、ややマジメに(いつもマジメだけど・笑)、ジャズ誕生の話を考えてみようと思う。そもそもこの論点こそが、この連載タイトルの原点なんだよね。一体ジャズとはなんぞや?という話でもある。
現代において「ジャズって何?」という話が意外に難しいのと同様、どの時点でジャズが始まったのかという議論も結構難しい。見方、捉え方によって随分違ってくると思う。ある人は、そもそもブルースの元になったワークソングがジャズのルーツだといい、ある人はビッグバンドの幕開けこそがジャズのルーツだといい、どちらの見方も間違いじゃない。だから、ジャズの誕生を考えるにはまず、ジャズを無理矢理にでも定義付けしてみる必要がある。

ぼくの独断と偏見で言わせてもらえば、(いや、突然独断と偏見に陥って恐縮だが、開き直らないと話が進まないんで(^_^;)・・・)、ジャズというのはまず都市の音楽だ。これは20年以上プロのミュージシャンとして、日本・アメリカ・ヨーロッパ・オーストラリア・タイ・インド・モロッコ・台湾、あたりでジャズをプレイしてきた実感である。もちろん、ルーツとなる要素はその限りじゃない。ジャズはいろんなローカルな要素を飲み込むけれど、それがジャズとして結実し、シーンを形成する場所は都市なんだ。必ずしも首都とは限らない。地方都市でそれが結実する場合もあり、事実アメリカにはいくつも「ジャズの都」が存在する。

                        「RHYTHMATRIX」
ニューオーリンズ、カンサスシティ、セントルイス、シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルス、それは時代を経て変わってきた。他には50年代のパリや、90年代のロンドンもジャズの都と言えるだろう。
ジャズはなぜ都市の音楽なのか?もちろん、そこに仕事があるからだ。ジャズと決して切り離せないのが「酒」と「ダンス」。これらをビッグビジネスとして提供するのは、やっぱり都市だよね。ジャズの運命を単なる「音楽文化」として捉えると、真実を見失うことになる。ジャズという極めて魅力的な音楽もまた、もっと大きな世相・文化の一部でしかないからだ。
  これを前提とするなら、ジャズはやはりニューオーリンズで生まれたという事が出来る。ニューオーリンズで何が起こったのか、かいつまんで説明しよう。ジャズの誕生はまず、アメリカの黒人奴隷解放に始まる。解放以前の南部アメリカでは、奴隷が楽器を演奏することを禁じている州がほとんどだった。その理由は、黒人達の一部が楽器を使用してコミュニケーションを取っていたからだ。これはもちろん、彼らの故郷であるアフリカでの習慣だ。アフリカの言語の中には、音程の変化で意味を表す言葉もあり、こういった言葉は楽器でもある程度表現することが出来てしまう。それに気付いた白人達は、自分たちの気付かないうちに奴隷達が反乱や逃亡を共謀するのではないかと恐れた。だから多くの黒人達は、楽器を使うことが出来なかったんだ。
奴隷解放後、その黒人達が突然楽器を手にすることになった。アフリカの楽器など当然無いから、彼らは手近にある西洋楽器をプレイした。ちょうど戦争が終わり、軍が払い下げた中古楽器が出回っていたから、黒人達も安く手に入れることが出来たらしい。
さて、ニューオーリンズは南北戦争当時、アメリカで最大の港湾都市だった。モノも人もこの町からアメリカへと入ってきたんだ。フランス移民の多かったこの地では、フランス軍楽隊のブラスバンドが盛んだった。これは元々「鼓笛隊」と呼ばれたスタイルで、トルコから来ている。十字軍の時代に東方からラテンヨーロッパ諸国へ伝わり、18世紀には全ヨーロッパでエキゾチックな「トルコ行進曲」が流行した。このトルコマーチがジャズの大本だと言ったら、驚く人もいるだろうね?

「セカンドライン」と言われる音楽をご存知だろうか?ニューオーリンズを代表する音楽スタイルの一つで、現在の日本でも「Black Bottom Brass Band」などがプレイしている。あれがジャズのルーツだ。その元になったのがフランスの軍楽隊、さらにその元になったのがトルコの鼓笛隊。この時点で既に、随分旅をしてきたものだ。
編成は主に打楽器とブラス、つまり金管楽器だ。こう言えばもう、勘のいい方は「セカンドライン」から「ビッグバンド」への流れがイメージできると思う。両者は一体何が違ったのかというと、目的が全然違っていた。セカンドラインというのは、実はお葬式の音楽だったんだ。棺を墓地へと運ぶ、葬列の後から楽隊が付いていくから「セカンドライン」。そして埋葬の後、厄払い的に賑やかな音楽を演奏するラテン的な風習があったんだ。
お葬式の後に演奏していた陽気な音楽を、酒場や花街の室内へ持ち込んだのが「ディキシーランド・ジャズ」だ。ディキシーランドの代表曲に「聖者の行進」があるけれど、これはまさにそんなルーツを表している。こうしてやがて、アメリカ最大の都市で酒とダンスと共に一世風靡したのが、華々しいジャズの誕生だった。白人も黒人もこのジャズをプレイしていた。極めて新しい、極めてアメリカ的な、豪放でワイルドで魅力的な音楽だった。このシーンの中で、いつしか「ジャズは黒人音楽」と呼ばれるようになったのはなぜか?次回はそれを考えてみよう。

で、「RHYTHMATRIX」のアルバム・リリースに先立ち「プレリリース・ツアー」というのをやります。実はこのライブを決めた時点では、まだアルバムのリリースは決まっていなかった(^_^;)。最近国内ライブのブッキング時期はどんどん早まる傾向にあり、5ヶ月くらい前に動かないとツアーは組めない。その5ヶ月の間にいろいろ状況は変わっていく。それで、気付いたら「プレリリース・ツアー」になっていた。
レコーディングを終え、リリースを控えて絶好調の「RHYTHMATRIX」を、是非見に来てください!ディキシーじゃないけど「踊る系」の音楽なので、みんなで楽しく踊りまくろうね!(つづく)


<5月のライブ情報>
5/08(金) 目黒ブルースアレイ・ジャパン(03-5496-4381):RHYTHMATRIX+太田剣
5/22(金) 名古屋スターアイズ(052-763-2636):RHYTHMATRIX
5/23(土) 大阪ミスターケリーズ(06-6342-5821):RHYTHMATRIX
5/24(日) 豊橋AVANTI:RHYTHMATRIX =SOLDOUT!
5/26(火) 水戸Girl Talk(029-225-0050):クリヤ×コモブチ・デュオ

RHYTHMATRIX=クリヤ・マコト(p)、コモブチキイチロウ(b)、安井源之新(perc)、
ツアー・ゲストドラマー=村上広樹(ds:5/22〜24)、
5/8目黒公演スペシャル・ゲスト=太田剣(sax)、宮川剛(ds)

※詳しくはクリヤ・マコト・オフィシャルサイトをご覧ください。
http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/

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