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ハイブリッドジャズの歴史 -クリヤ・マコト-


第23回:ブリュッセルでビル・エバンス

  ここ何回か、3月に行ったエジプト〜ヨーロッパ・ツアーについて書いてきたが、ブダペストの次はブリュッセルへいった。ここまでカイロ(エジプト)、ブダペスト(ハンガリー)、ブリュッセル(ベルギー)と、初めての国、初めての都市が続いて刺激がいっぱい。カイロではピラミッドを満喫して、ブダペストのキレイな街と食事も楽しみ、既にこの旅は十分満腹状態・・・だったが、ブリュッセルもまた素晴らしかった。
空き日があったので丸一日観光。見事なまでに美しい旧市街や、山の手の丘の上にある楽器博物館を満喫し、美味しいワッフル、チョコレート、クレープを食い過ぎ、すっかり観光客気分。ブダペストもそうだったけど、ブリュッセルも食事が最高で、人も皆親切だった。

  ちなみに、ここから先は地元ジャズクラブで地元アーティストとセッションをするという気軽なギグが続く。ブリュッセルで共演したのはご当地の名サイドメン、バート・ドゥノルフ=ベースとミミ・ヴァーデム=ドラムだ。


ブリュッセルの有名な「グラン・プラス」にて。

地元シーンに根付いたジャズ好きの集まる「Sounds」というクラブで軽いリハーサルを終え、彼らが案内してくれたピザ屋がまた絶品だった!これはいわゆる行列のできる店で、名前を言って別のカフェで待っていたら携帯に電話をくれる。普通日本じゃライブ前にここまでして食事はしないから、ブリュッセル地元人の食に対するこだわりは相当とみた。終演後には地元自慢のビールをたっぷりご馳走になり(やたら種類が多い)、結局飲んで食ってばかりいたかんじ・・・(^_^;)。

 

  さて話をジャズに戻すと、ここで共演したバートとミミは二人ともまさに大人のプレイヤーで、極めて落ち着いたテクニシャンだった。やたら元気でややサブカルな「TOKYO FREEDOM SOUL」とは対称的な感じ。まさにこれが、「沸騰アジアの極東文化」と「円熟した大人のヨーロッパ文化」の違いかとつくづく実感したが、それぞれに味があっていいもんだ。結局の所やはり、自分の民族性、自分たちらしさというものが大事だなあと思う。

  なおかつ根底には、ジャズの遺産を引き継いで同じ巨匠を敬い、同じ名盤を聴いて長年修行し、その意味で世界共通言語を持っているのが我々ジャズメンの醍醐味だ。だからこそ今日始めてあったアーティストとでも、思い出に残るセッションを実現できる。


地元に根付いた「Sounds Jazz Club」での共演。
 以前動画連載で、クリヤ・マコト・ピアノ・トリオによる「ピアノ・トリオ入門」と題する対談を行ったが、その中で「何が何でもビル・エバンス・トリオ」と主張したのがベースの早川哲也である。もちろん、ジャズを勉強する人間なら避けて通れないのがビル・エバンス。なぜかというと、彼は現代ジャズの最も特徴的遺産である「コンテンポラリー・ハーモニー」のパイオニアだからだ。今どき、エバンスのハーモニーを抜きにジャズをマスターすることはできないのだ。今日最も尊敬されているジャズ・ピアニストのハービー・ハンコック、チック・コリア、キース・ジャレットの3人も、もちろんエバンスの伝承者である。

  このように世界中のジャズメンからリスペクトされているエバンスだが、彼と一緒にレコーディングして歴史的名盤を残しているトゥーツ・シールマンスがベルギー人である。言うまでもなくクロマチック・ハーモニカの第一人者で、88歳となった今も現役で活躍するジャズの巨匠だ。セサミ・ストリートを見たことがある人なら、毎回必ずトゥーツのハーモニカを聞いているはず。
  ぼくはアメリカに住んでいた頃、一度トゥーツと共演する機会があった。彼にとってビル・エバンスとの仕事は誇りだったらしく、エバンスの話をしながら何とエバンス直筆の譜面を手渡してくれた。名プレイヤーとの共演も嬉しかったけど、エバンス直筆の譜面もことさらに印象深く、生涯忘れられない思い出となった。もちろん終演後に譜面は回収され、時間があったらコピーしてやろうと狙っていたのだが(笑)生憎その機会はなかった。このエバンス直筆の譜面はきっとトゥーツの宝モノで、みんなに自慢しているんだろうなあと思った。

  それから20年もたって、初めてのベルギー・ブリュッセルで共演したベースのバートは、トゥーツのレギュラー・ベーシストだった。最近のトゥーツは自分のレギュラー・グループでしかプレイしないと聞いていたが、バートはそのメンバーだったんだ。そして出会うなり、バートはエバンスの直筆譜面のコピーをプレゼントしてくれた!絶対喜ぶに違いないと思ってくれたんだ。(イイヤツ!)


ビル・エバンス直筆譜面のコピー部分
 

  20年前に見た譜面は「酒とバラの日々」で、わりと殴り書きっぽい感じだった。今回のはもっとすごくて、「Make Someone Happy」を中心に、「Funkallero」など4曲のコードがほとんど殴り書き状態になってる。確かに面白くて、ちょっとレアなので画像を掲載しよう。ぼくが共演したときもトゥーツは、ケースにいっぱいエバンスの直筆譜面を大事そうに詰め込んでいたけど、あれから20年、やっぱり今も大事にエバンスの譜面を使っているんだなあ。なんだかすごく嬉しかった。


<クリヤ・マコト:8月のライブスケジュール>
8/2(月) 青山BODY&SOUL(03-5466-3348)
  TOKYO FREEDOM SOUL with MARU
  出演:クリヤ・マコト(pf)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)、ゲスト=MARU(vo)
8/6(金) NHK神戸トアス・ステーション無料公開ライブ
  クリヤ・マコト+魚谷のぶまさ デュオ
8/7(土) 目黒ブルースアレイジャパン(03-5740-6041)
  安井源之新まつり
  出演:安井源之新(perc)、中川昌三(fl)、クリヤ・マコト(pf)、平松加奈(vl)、小畑和彦(g)、
     コモブチキイチロウ(b)、シキーニョ(vo/g)、助川太郎(g)、石塚まみ(vo/pf)、黒田清高(ds)
8/28(土) 福岡中洲ジャズ2010
  RHYTHMATRIX with 青木カレン
  出演:クリヤ・マコト(pf)、早川哲也(b)、安井源之新(perc)、村上広樹(ds)、ゲスト=青木カレン(vo)
●9月から「クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ」ツアースタート。詳しくは今月の動画をご覧ください。


クリヤ・マコト・オフィシャルサイト
http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/live/schedule.html


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